ジャニーズアイドルの本から見る解散の歴史(後)

さてそれでは、Before SMAPの解散が一体どのようなものだったのか、考えていきたいと思います。資料については、前回の記事をご参照ください。

  • 解散は常に浮上する

当時の空気としては、解散するのが当然だった。だから、解散は前提として「いつ解散するのか」「何をきっかけに解散するのか」といったところがポイントだったように感じました。人気が落ちてきた、グループ活動が減ってきた……そういった変化があれば、すぐに「解散」という文字が浮かんできていたようです。ただ、元シブがき隊・薬丸裕英の著書を見ると「個人活動を充実させて、年に2〜3回グループ活動を行う」というスタイルもありだったこともわかります。TOKIOも最近「目指す目標はドリフターズ」と発言しておりましたが、個人活動とグループ活動を両立させる、音楽活動もバラエティもドラマ出演もするなど、芸能界にロールモデルのいなかったジャニーズグループにとってドリフターズは心強い先輩だったのかもしれません。

この空気はSMAP以降で大きな転換が行われており、今度は逆に「解散しない」方が主流となりました。最初に触れたNEWSの例のように、また同じくメンバーが4人になっても続けるKAT-TUNのように、たとえ解散の可能性が浮上しても、なるべく解散しない方へ舵を切っているように見えます。今も昔もグループに解散という選択肢が出るのであれば、どちらか迷った時に「解散に向かう方が当然」という空気と、「解散しない方が当然」という空気では結果が違ってくることでしょう。

 

  • 金銭問題

実際に本を出している中には金銭問題でもめた人はあまりいない、どころか「世間的に金銭問題が原因と言われているが実は違う」と否定する人もいるのですが、あまりお金をもらってなかったのは事実のようです。「少年たちに大金を渡してはいけない」という信条があったり、衣食住を面倒見る、プロデュースに金をかける、など別のところにお金をかけていたからというのが理由らしい。ただし何かほしいときは言えば言うだけお金をもらえたそうで、元フォーリーブス北公次は競走馬を買ったりしています。相当なおこづかいです。とても家族的な感覚だったのでしょうが、自由に使えないのはやっぱりつらいだろう……。

 

  • アイドルは子供のもの

「アイドルは子供のものである」という前提も見てとれます。郷ひろみ北公次大沢樹生などの語る心情はどれも共通しており、どんどん大人になるアイドルたちと、事務所側が進めるパフォーマンスのバランスがとれていなかったのではないかと推測できますね。事務所側としても、大人のアイドルを世に出すノウハウがなかったのかもしれません。田原俊彦にいたっては自身も「事務所はティーンエイジャーのための会社であるべきだ」と言っていますし、「アイドルは子供を相手にしたパフォーマンスをするものだ」といった前提が内面化していたのではないかと思われます。

 

  • やりたいことをやれない

「やりたいことをやれない」という葛藤もいくつか語られています。これはけっこう複雑で、前述の「事務所側に大人のアイドルを世に出すノウハウがなかった」こと、豊川誕や大沢樹生が感じていたように「アイドルを演じ(させられ)ていた」こと、郷ひろみのように「忙しすぎて立ち止まる余裕がなかった」こと、いろんな背景が集約されているように思います。
またアイドルの「やりたいこと」と言われると、「本当はロックがやりたいのに俺は……!」といった感じのイメージがあるのですが、それだけではなく、自分たちの人気の下降を肌で感じて危機感を覚える姿が見えます。世間からいい評価を得られていないことや、ファンがどんどん離れていくことに対して、誰もが「年齢によってパフォーマンスを変えていかなければならない」「時代から乗り遅れてはならない」と感じていたと告白しているのです。そして、このまま事務所にいたら成長できない、だめになる、と考え解散や脱退に至ります。これはまるで「この会社はだめだ!」「上司がだめだ!」と言って転職する会社員ではないですか……。*1

あの東山紀之ですら、デビュー5年後くらいには「これからは自分たちで曲を作らなければ」と考え、プロデュースに不満を抱いていたと語っています*2。世間がロックバンドブームの中で、歌って踊る自分たちは時代から取り残されるのではないか、という不安があったのです。その後は結局「時流にはどうしようもなかったが、僕らには僕らのやるべきことがあると思った」「グループが存続する以上、グループのためにもソロ活動を頑張らなければいけないと僕は思った」と気持ちを切り替えています。*3

 

  • 事務所の対応は?

事務所側も何もしていなかったわけではありません。60〜70年代にはいくつか楽器もできるグループを発表、更に80年代後半から90年代にかけては男闘呼組TOKIOといったバンドグループへつながっていきます。近藤真彦や少年隊も、大人の楽曲へシフトさせるなど試行錯誤を行っており、考えられない人しかいなかったわけではなかったのでは……とも思えてきます。

また川崎麻世については、元から「麻世は、武道館をいっぱいにするアーチストでなくて、ひとつひとつの小屋(劇場)を一カ月間満員にさせるようなアーチストになってほしい」「麻世には将来、舞台俳優として成功してほしいのだ」*4と言って、そのための人脈づくりが行われていたそうです。たのきん人気に火がつき”最も輝ける場所”を後輩たちに譲った川崎の心情を心配して、一人暮らしのマンションを用意し、舞台の勉強をしなさいと海外へ送り出したりしていました。大人タレントが育たないこと、後輩に人気を譲ったアイドルがすぐに辞めてしまうことなどについて、実は危機感を抱いていたのかもしれません*5

過去の状況に比べれば、現在はライブハウスでソロライブを行うことも可能ではあるし、小劇場で尖った舞台をやることはむしろ推奨されてるんじゃ?というくらい定期的に行われています。アイドル側が持っている焦燥をある程度受け止めることができるようになったこと、またアイドル側も企画書を会社に提示するなど、社会人としての能力を発揮できるくらい大人になってきている(大人になっても辞めない)、アイドル側の偏差値が上がっていること(高等教育は大事……)で、少しずつ変化しているのではないでしょうか。本人たちがやりたい方向で成功してくれたほうが、メリットであることは間違いないわけですし。

 

解散しないグループでいるためには

では実際にこれまでの解散理由から、逆に「解散しないためにどのような環境が必要か」を考えていきたいと思います。

 

  • 解散しないグループが存在する

これはもう大原則すぎてなんとも言えないですが……「解散しない」という前例があれば、後続はどんどん出てくることがわかっています。ただ最初の1グループになるのが、本当に難しいのだろうと思います。ジャニーズも、設立から20年間は解散し続けたわけですから。現在は解散しなくても働ける、さらに再浮上の可能性もあるとなれば、解散するのは損となります。

 

  • グループ(ジャニーズ)でいることが個人活動を阻害しない

音楽をやりたい、芝居を極めたいといった場合に「ジャニーズ」という肩書やイメージが邪魔であったり、グループの活動によって個人活動に制限が生じたりする場合に脱退のリスク、ひいては解散のリスクが高まります。

自分が好きな分野でなかなか世間から認められない原因を「グループの活動のせいだ」とか「ジャニーズというブランドがじゃまだ」と考えてしまうと、どうしたって脱退や解散が頭をよぎってしまうでしょう。逆に個人活動を充実化させ、自分が認められたい方向で認められた場合、無理してジャニーズを抜けたりグループを解散したりする必要がなくなるのではないでしょうか。また、気持ちに余裕ができると、今度はグループでもっと面白いことをやりたい、と思うようにもなるかもしれません。

って勝手に考えただけなんですが、今のV6やKinKi Kidsを見ているとそこまで間違ってもいない気がします。この仮定が正しいなら、メンバーが個人活動を始めたり成功したりした場合に「脱退か!?解散か!?」と騒ぐ必要はなくなるかもしれませんね。

逆にグループ愛が強くて、グループ活動が少ないことに不満を覚えるタイプもいますが、こういった人はまず解散を主張しないと思います。個人活動を望む人がいるならその希望をたてて、年に2〜3回はコンサート、シングル発売、などで集まるドリフ形式が良いのかも。みんながグループ活動を大事にするタイプならこの項目に関する不安はそこまでないですが、どちらにしても個人活動の充実はアイドルの心の余裕につながると思われます。

 

  • ジャニーズ自体が好きなこと

SMAPや嵐の縦横無尽の活躍、また世間のアイドルブームにより、"アイドルが好きなアイドル""アイドルを極めたいアイドル"も増えてきています。憧れの先輩をファンのように慕う若手ジャニーズがとても多いのです。
またベテラン勢も、他の音楽ジャンルとは違った「エンタテインメント」としてのコンサート構築を楽しんでいるように見えます。それは世間から「エンタテインメント性」がある程度評価されるようになったのも大きいかもしれません。最近はロックバンドの人たちが「ジャニーズはやっぱりすごいな」と言ったりしますもんね。

ちなみに私少年隊も好きなので言ってしまうけど、やっぱり少年隊の存在って大きかったんじゃ……と思っています。Before SMAPで唯一解散していないグループだし*6、何より今のJr.も少年隊のパフォーマンスが好きだとあげる人がけっこういる。特に舞台系の人たちは少年隊の歌を歌い続けているため、Jr.の楽屋に少年隊のアルバムが流れていて、曲を聴いた他のJr.が「かっこいいな」と思って披露したりするわけですよ。嵐だって、VS嵐の前室で少年隊のDVDを見て「かっこいいな」と言っているらしいのです。それまで解散していったジャニーズはつまり、自分たちのパフォーマンスをだんだん「子供向け」と思うようになっていったわけですが、先輩のパフォーマンスをすごいと思っていられたら、状況は変わるのではないでしょうか。ふつうの会社員だって、だめな先輩しか残ってないぜ!と思ったら、転職したくなりますし……。

 

  • 事務所の信頼度

やはり「会社への不信感」が大きな理由となりうるわけですから、大事だと思います。

現状はたぶん給料も良いし、マネジメントもそこそこしっかりしてそうだし、何かアイドルにやりたいことがあった場合実現できるような大きな力を持った事務所……のように見えます。今の所50歳くらいまではなんとか働けそうだし、転職などはあんまり考えないでしょう。

ただし、今後の展開次第ではわかりません。今後何か事務所に変化が起こったとして、物理的に割れたりするよりも、そこでぐだぐだして「だめだこりゃ」って思って離脱することの方があるかもしれない……*7


……全体読むとなんか持ち上げすぎでは、という感じですよね。「解散しないこと」を良いことととらえると、そういうトーンになってしまう。でもまあ言ってしまえば逆に、解散しないことによるデメリットも発生しているだろうなとは思います。たとえば若手がなかなか活躍できないとか、事務所が社員を抱えるコストはどうするとか、ずっとアイドルでいつづけることは本人たちにとってつらいのではないかとか。これはもう、若くして活躍できるけどどんどん転職を重ねて働きたいか、なかなか昇格できないし役割から逃げられないけど定年まで勤めるか、そういった選択の話になってくるのではないでしょうか。
ずっとこのままでいられるわけでもないとは思うのですが、それでも私は、君と好きな人が千年続きますように……*8と祈らずにはいられません。

*1:今回のような自著を出している人はだいたい芸能界を引退せずに働いているわけで、「芸能人であることにつかれた」みたいな理由がないですから、それもまた当たり前なのかもしれませんが

*2:東山紀之,2010年『カワサキ・キッド朝日新聞出版,p146

*3:ちなみに同書では「お金と女性について揉めることがいっさいなかったというのが、グループ長続きの秘訣かもしれない」とも書かれています

*4:川崎麻世,1999年『カイヤへ!』マガジンハウス,p85

*5:単純に川崎麻世がすごくお気に入りだったという線もある

*6:ただしAfter少年隊はいくつかグループが解散しているので、少年隊でわけることはできないと思っています

*7:奥歯にもののはさまったような言い方

*8:千年メドレーも続いてほしい