※この記事は、田口くんの脱退について触れていますのでご注意ください。
先日、日テレの「ベストアーティスト2015」という生放送の歌番組で、KAT-TUNの田口淳之介くんが脱退を発表しました。めちゃくちゃにびっくりしてつらい気持ちになったのですが、その発表のあとにメンバーの亀梨和也くんがたくさん謝っていたことにも驚きました。もうほとんど、不祥事の謝罪会見でした。
本当にまず大変の発表で申し訳ございません。何度もこのような形になってしまい、関係者の皆様、ファンの皆様、本当にたくさんのご迷惑とご心配をおかけしてしまっていること、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。すいません。KAT-TUNのメンバーの一員としてこのできごとを真摯にうけとめ、4人のKAT-TUNとしていただいているお仕事にしっかりと責任を持ち、全力で向き合っていかせていただきたいなと思っています。今回は本当に日本テレビさん、番組スタッフの皆様、櫻井くんをはじめとする出演者の皆様、本日出演されているアーティストの皆様ならびに関係者の皆様、そしてTVをご覧いただいております視聴者のみなさま、本当にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。このような時間をつくっていただきまして本当に皆様、ありがとうございます。
更にすごかったのは、男性アイドルがメンバーの脱退に対してこんなに謝ったあとで、AKB48の高橋みなみさんがさわやかに卒業について触れたことです。女性アイドルと男性アイドルで、「脱退」についての考え方が全然違うことがよくわかるできごとでした。どちらが良いとも、悪いとも言えないのですが。
この光景について話していた時、少女漫画の研究をしている方が「女性は少女からの卒業によって物語がなりたつけど、男性は少年からの延長に物語がある。だから女性アイドルにとって卒業は当たり前だけど、男性アイドルにとっては当たり前ではなくて、亀梨くんはあんなに謝らなくてはならなかったのかもしれない。少女漫画/少年漫画の違いといっしょだなと思った」という主旨のことを言っていました。つまり、女性アイドルは少女漫画の文脈で、男性アイドルは少年漫画の文脈にありそうだというわけですね。ちょっとこの仮定にそって、考えてみたいなと思いました*1。
Before/After SMAPで変わったもの
いまでこそ少年の延長で終わらない物語を続けている男性アイドルグループですが、「Before SMAP」の世界では解散も脱退も当たり前に存在していました。現在のようにほとんどのグループが解散せず、毎年どこかで●●周年を祝うような状態は、SMAP登場以降の世界で起こっているできごとです。
※参考
これを単純に先ほどの図式にあてはめてみると「Before SMAP=少女漫画の世界」「After SMAP=少年漫画の世界」となります。
Before SMAPの時代、なぜアイドルは男性なのに少女漫画の世界を生きていたのか、それはアイドルをめぐる物語の主役が、少女であるファンの方にあったからなのかな、と思いました。彼らは少女漫画のなかの王子様で、少女がいずれ卒業するべき初恋の相手で、だからこそ少女たちが卒業してしまったら自分たちも世界を去るしかなかったのではないか。
とまあ、かなり勝手に考えを進めていますが、実際にアイドルたちの述懐からもそのようなニュアンスを読み取ることは可能です。
ぼくはファンの人達に夢を与えるアイドル・スターだ。でも、たんに夢をあたえるというだけでいいのだろうか。自分の人間的な面をふくらまして、ファンとコミュニケートするなかから、ファンの人達とぼくとがいっしょになって夢や喜びをつくっていく。そういう形にならなければ、まもなく壁にぶつかるのではないか。(郷ひろみ)
僕は基本的にジャニーズ事務所はティーンエイジャーのための会社であるべきだと、思っている。今も三十代のタレントがいないわけではないし、いろいろな考え方があってもいいとは思うが、あくまでも、僕個人としては30歳をすぎたら事務所にお世話になるべきではないと考えていた。(田原俊彦)*2
古いファンが光GENJIに関心を失っていっても構わず、小・中学生の新たなファンが寄ってくるのを待ち構えているーー後期の光GENJIの戦略を、オレはそんなふうに受け止めるようになっていった。(大沢樹生)
※参考
男性アイドルは少年の延長で大人になっていっても、ファンはどんどん少女時代を卒業していってしまう。次の世代に王子の座を譲ることになるし、アイドル自身もいつまでも「少女の王子様」をやっていられないと考えてしまう……。
そこにあらわれたSMAPは、衣装も王子様系からカジュアルダウンするわ、バラエティ番組にも積極的に参加するわ、彼女の話もするわと、新しいアイドル像をつくっていきました。その像が、今も脈々と引き継がれています。
前述の仮定にそってみると、SMAPは「少女の王子様」を卒業することで、男性アイドルを「少年漫画」にした、自分たちが主体となった男性の物語に変化させたと言えるのではないかと思ったのです。そして、後続のグループもアイドル主体の物語をつむぐことによって、ジャニーズは「少女の物語」から卒業しなくても良くなっていったのではないでしょうか*3。たとえばいま日本を代表する男性アイドルである嵐は、「メンバーの仲が良い」ことがグループの魅力として筆頭にあげられています。これはやはり「嵐という男性の物語」の方が主となっている現状を表しているように見えます。メンバーの脱退、結婚、書類送検など多くのハプニングを抱えたSMAPが、2014年の27時間TVで多くの人の涙を誘ったのも記憶に新しいですよね。
モブは見守ることしかできない
と、ここまで考えたのですが、彼らが卒業しない物語をつむぐのであれば、やっぱり結婚や脱退などの選択も避けては通れない道となってしまうのかもしれません。だって我々ファンが主役ではなく少年漫画の脇役、というかモブ的存在、あるいはただの読者なら、主役の決断に対して何も言うことができないではないですか。卒業しない前提だから、亀梨くんはあんなに謝ったけど、卒業しないのなら、何があっても見守らなければいけない。矛盾しているようですが、そういうことなのかなと。更に言えば、彼らが自分たちの物語を提供するのなら、最悪ファンの方がみんな卒業してしまっても、物語自体は成立してしまう。もちろんタレントとして十分な収入があってビジネス的にOKであれば、という話ではありますが。ちょっと、さびしい気持ちになる部分もありますね……。
まあこの仮定をあてはめられるのかちゃんと検証しなければいけないのかもしれないし、いやそもそも男性アイドルは少女漫画でしかないよとか、もしかしたらいったんは男性の物語になったけど、また揺り戻しのように「ファンである女性の物語」になってきているとか、いろいろあるかもしれません。女性の物語も少女からの卒業ではなく、少女の延長にあるのだ、という風潮になってくれば、ファンの物語になっても王子様はいなくならないですむのですから*4。
何が良いことで何が悪いことなのか、自分には判断することができません。ただ、個人的にはどんなかたちであっても、終わらない物語を見たいと、願ってしまうな~~。